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国東簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人田口幸生を科料五百円に処する。

右科料を納めることができないときは百円を一日に換算した期間被告人田口を労役場に留置する。

被告人清原重忠は無罪。

理由

第一被告人田口幸生について罪となるべき事実

被告人は昭和二十九年十月四日午前十時三十五分頃東国東郡国東町大字鶴川、岩田屋前附近道路において、二輪自転車の荷台に相被告人清原重忠を乗車させ運転したものである。

証拠の標目

国東警察署司法巡査釘宮信広作成の交通違反現認報告書

被告人両名の各検察事務官に対する供述調書

被告人両名の当公廷における各供述

法令の適用

道路交通取締法第二十三条第一項、第三十条、同施行令第四十一条、第七十二条第三号、昭和二十三年大分県規則第五号(道路交通取締令施行規則)第七条第五号、昭和二十九年大分県公安委員会規則第十一号(大分県道路交通取締規則)附則第三項、罰金等臨時措置法第二条第二項、刑法第十八条

第二、被告人清原重忠について

公訴事実は「被告人等は昭和二十九年十月四日午前十時三十五分頃東国東郡国東町大字鶴川、岩田屋前附近の交通ひんぱんな道路において、二輪自転車に二人乗り(検察官は被告人清原を荷台に乗せて被告人田口が運転したと釈明した)をしたものである」というにあつて、右被告人の所為は、前示相被告人田口幸生の判決理由において判示した各証拠により之を認めることができる。

しかし、右被告人の所為が罪となるか否かについて按ずるに、前記昭和二十三年大分県規則第五号(以下規則という)は昭和二十三年二月二十日に公布し、同年一月一日に遡り施行されたものであつて、その第七条に「道路においては他の規定によるの外左の行為をしてはいけない」とし、同条第五号に「二輪自転車に二人以上乗ること、但し七才以下の者一人を乗せることは此の限りでない」と規定している。そしてこの規則は当時施行された旧道路交通取締令(以下旧令という)の委任により制定されたものであるが、該旧令は昭和二十八年八月三十一日限り廃止された為め、右規則はその根拠を失つたものである。しかし、同年九月一日から道路交通取締法施行令(以下令という)が施行され、同令の附則第三項により、旧令の規定により都道府県知事が制定した規則は、右令の相当規定に基いて制定されたものとみなされることとなつたものである。(その後昭和二十九年七月一日施行された右令の一部改正の附則第四項により都道府県公安委員会が改廃の措置をとるまでの間に、なお効力を有するものとされた)そうすると前記規則第七条第五号の自転車二人乗り禁止の規定も現行の令にその根拠を求めなければならない。そしてその根拠となる令における相当規定は、令第四十一条又は令第六十八条第十三号である。

そこで先ず検察官が起訴状に罰条として掲げる令第六十八条第十三号について考えて見るに同号は「………その土地における気候風土又は交通の状況に応じ都道府県知事(昭和二十九年政令第一八一号による改正により都道府県公安委員会と改正された。以下同じ)が………指定した行為をすること」と規定している。従つて本号により都道府県知事が指定する道路における禁止行為は、その土地における気候風土、又はその土地における交通の状態に応じたものでなければならないから、本号により自転車の二人乗りを禁止するにもその土地における交通の状態に応じたもの、例えば特に交通ひんぱんな区域又は場所に限定するというような制限附の規定でなければならないのであつて、その制限をせず一般的に之を禁止する規定を設けることは本号の委任の範囲を逸脱し、地方自治法第十五条第一項の「法令に違反しない限りにおいて」制定された都道府県規則とはいえない(この点に関しては東京都道路交通取締規則(昭和二十八年規則第一七二号)第五条に「交通ひんぱんな道路においては、………二輪自転車に二人以上乗車してはならない………」との規定が参考とされる)であるから右規則第七条第五号の自転車二人乗り禁止の規定が、令第六十八条第十三号の委任により制定された規定と解するなれば、結局憲法第三十一条に違反し同法第九十八条により効力を有しないことになり本規則は適用し得ないものといわねばならない。

次に令第四十一条により都道府県知事が委任された自動車又び令第四十条第一項の荷車以外の諸車についての乗車又は積載の制限について考えて見る。本条は右令の規定の体裁、順序から見ると、前三条即ち令第三十八条乃至第四十条の規定を受けた規定であるが、その内乗車の制限を規定したものは令第三十八条同第三十九条第二項であつて、之を前示規則公布の当時施行されていた旧法と対比して見ると、令第三十八条は旧令第三十五条に令第三十九条第二項は旧令第三十六条第二項にそれぞれ相当する、そして旧令第三十五条及び第三十六条第二項には「諸車(或は自動車又はそのけん引する車)の使用主又は運転者は……乗車をさせ……てはならない」と規定して、その取締の対象者即ち処罰対象者を諸車等の使用主又は運転者とし、乗車した者(以下同乗車という)はその取締の対象者としていない、従つて右則もその根拠法である旧令の法意の範囲内において委任制定されたものと解すべきであるから、同規則においても同乗者を取締の対象者としていないものであると解するを相当とする、尤も昭和二十四年十二月一日から施行された旧令第三十五条第三項(改正により附加されたもの)は同乗者を取締の対象者としているが、この改正規定が昭和二十三年二月二十日の右規則公布当時に遡つて同乗者を取締の対象者とすることを委任したものであるとは到底解することはできない、何故なれば根拠法の委任の範囲を逸脱した規則は前記令第六十八条第十三号において説明したとおり、地方自治法並びに憲法の各条規に違反し無効であるから、その後根拠法の改正があつたとしても之に基いて新に規則が制定されない限り当然には有効なものとはなり得ないからである。

以上の説示を前提として本件取締規定である右規則を解釈すると、同規則は令第四十一条の委任により制定したものとみなされる規則ではあるが、その取締の対象者は諸車等の使用主又は運転者であつて同乗者は之が対象者としない規定であると解せられる。従つて自転車二人乗りについての取締対象者もその運転者のみで同乗者はその対象者とならない、この理は規則第七条第五号但書の反対解釈、及び昭和二十九年十二月二十日公布し本年一月一日から施行した右規則の改正規定である大分県道路交通取締規則(大分県公安委員会規則第十一号)第二十九条第一項に「令(道路交通取締法施行令)第四十一条の規定により……自転車の運転者は人を乗車させてはならない。但し安全な乗車設備を有するものに七才未満の者一人を乗車させることはこの限りでない」と規定し、同乗者を取締の対象者としていない法意からも肯定し得らるるのである。

なお同乗者が運転者と共犯関係にありとして処罰されるか否かについて考えて見る。この点に関して道路交通取締法令においては何等特別の規定はない、従つて一応は刑法第八条本文により同法第六十条が適用され、同乗者は運転者と共犯者なりとして処罰されると解されないでもない。しかし、同法第八条但書の「其法令ニ特別ノ規定アルトキハ此限ニ在ラス」との刑法総則の適用の除外規定は必ずしも明文による規定であることを要するものでなくその法令の立法の経緯及び趣旨により刑法総則の規定を除外する法意であることを窺知し得る場合を包含すると解するを相当とする、そして道路交通取締法令において乗車を制限する規定は前示のとおり令第三十八条第三十九条第二項であつて、この規定中第三十八条第三項(旧令第三十五条第三項に相当する)は同乗者を取締の対象者としているが、今その立法の経緯を見るに、この規定は前示のとおり昭和二十四年十一月一日から施行された旧令の改正により附加されたものであるが若しも乗車制限違反の同乗者を刑法第八条本文により共犯者として処罰し得ると解するならばこの規定を旧令改正の際に附加える必要はないのである、そして令第三十八条の場合のみに附加え、令第三十九条第二項の乗車制限違反における同乗者に対して、令第三十八条第三項と同旨の規定を設けていない法意から推察すれば、令第三十八条第一項に挙示する如き運転の妨害となるような乗車をすること、及び同条第二項竝びに令第四十二条のような乗車によつて同乗者自身に危険を生ずる如き乗車をすることを禁止し、之に違反した場合のみを処罰し、その他の乗車については同乗者を取締の対象としなくとも、道路における危険防止その他の交通安全を図ることができるとの趣旨であり、これら同乗者の所為については共犯者としても処罰しない法意であると解するを相当とする。従つて道路交通取締法令中尠くとも乗者制限違反における同乗者に対しては刑法総則の共犯に関する規定の適用は之を除外する法意であると解せざるを得ないのである。

以上いずれの法令に根拠を求めても自転車の二人乗りについてその同乗者を処罰する規定はないことに帰し、被告人清原重忠の所為は罪とならないので刑事訴訟法第三百三十六条を適用して同被告人に対し無罪の言渡をする。

(裁判官 吉松卯博)

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